●米国良識派の声としたいなー

温暖化、米の愚かな選択
           米コロンビア大教授 ジェフリー・サックス氏2017/4/14付情報元 日本経済新聞  伝説によると中世イングランドのカヌート王は、王であっても海の波を好きなように動かすことはできず、自然の法則が人間の命令に勝ることを示すために王権にへつらう者らを海に連れていったという。トランプ米大統領は自ら署名した、オバマ前政権の地球温暖化対策を全面的に見直す大統領令で、波を押し戻せると考えているのだから哀れだ。
 トランプ氏とその仲間は気候変動を否定することで石炭や石油、天然ガスのかつての富と栄光を取り戻せると思っている。トランプ氏によると、火力発電所への二酸化炭素(CO2)排出規制の見直し指示などは米国の石炭産業の新たな雇用を生み、エネルギーの独立を実現し、経済成長を後押しするという。トランプ氏はオバマ前政権が建設を認めなかった、カナダ西部アルバータ州から米メキシコ湾まで原油を運ぶ「キーストーンXLパイプライン」の建設も承認した。
 トランプ氏が政策を進める最も重要な動機は、議会や州政府の共和党に潤沢な選挙資金を提供する石炭や石油、天然ガス産業が潤うことだ。要約すれば、選挙資金と引き換えに政府の政策を提供する政治的腐敗ということになる。米石油大手のエクソンモービルやシェブロン、エネルギー複合企業のコーク・インダストリーズ、米商工会議所などが主要なプレーヤーでほとんどの共和党下院議員が関係している。
 しかしトランプ氏は波を止められないのと同様、海水面の上昇や地球温暖化を止めることはできない。世界もそれが真実だと知っている。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」が昨年、発効している。世界の気温が史上最高を記録する中、トランプ氏によって考えを変える人はおらず、追随する国もないはずだ。
 中国や欧州、ペルシャ湾岸地域でさえトランプ氏の動きに影響を受けることはないだろう。中国はCO2排出量を削減し、太陽光発電や電気自動車といった低炭素技術で21世紀のリーダーになろうとしている。技術面でも外交面でも、米国との戦いに勝利するのは中国だろう。欧州はゼロエミッション(無公害)経済に向けてまい進中だ。湾岸諸国は再生可能エネルギー、なかでも太陽光発電を大規模に展開している。
 米国内ではトランプ氏の行動に反対する訴訟が起こされることも予想される。トランプ氏の敗訴はほぼ確実だ。米環境保護局(EPA)によるCO2排出規制を覆すことはできないだろう。EPAは「米大気浄化法」に基づく権限があるが、トランプ氏は議会で同法を修正するための票が不足している。米国の有権者は化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を支持している。米国の政治が腐敗しているとしても、有権者の見解は依然として重要だ。
 トランプ氏は石炭産業を蘇生させることもできない。石炭はあらゆる面で不利な状況にある。炭鉱の作業員や石炭を使う火力発電所の周辺に住む人々の肺疾患の原因となるほか、石油や天然ガスよりもCO2排出量が多い。雇用に関しても炭鉱は自動化が進んでおり、石炭産業全体の雇用者は数万人程度だ。石炭はトランプ氏がいてもいなくても、将来の米国の雇用傾向に大きな役割を果たすことはないだろう。
 私は費用が数十億ドルかかるキーストーンXLパイプラインも建設されないと予想している。世界は直ちにCO2を出さない「ゼロカーボン」エネルギーに移行する必要がある。採掘にコストがかかり、環境を汚染する「オイルサンド」と呼ばれる砂岩由来の原油を必要としていない。投資家は使用が始まる前に破綻する公算が大きいパイプラインを拒否する可能性が高い。
 米大統領の愚かさと、共和党の腐敗にはがくぜんとするしかない。しかしトランプ氏の気候変動を巡る妄想によってグローバルな現実が変わったり、パリ協定の達成に影響が及んだりすると考えるべきではない。
((C)Project Syndicate)
 Jeffrey Sachs 米ハーバード大卒。コロンビア大地球研究所所長。専門は開発経済学。南米、東欧など各国政府の経済顧問も務める。62歳。
市場開拓こそ本道
 米国は中国に次ぐ世界2位の温暖化ガス排出国だ。温暖化対策の新しい国際的枠組み「パリ協定」も両国の主導で発効した。トランプ大統領が温暖化対策を次々に廃止すれば、パリ協定の目標達成は遠のくとの懸念が広がっている。
 温暖化対策に消極的なのはトランプ大統領が初めてではなく、共和党政権に共通する。2001年には石油業界などとの関係が深いブッシュ(子)政権が「京都議定書」から離脱した。温暖化の科学的根拠にも疑問を投げかけた。
 しかし長期的な温暖化傾向は続いている。サックス氏の指摘通り大統領令で気候は変えられない。石炭・石油産業の保護で得られる雇用や経済効果と、温暖化対策の先取りによる新市場開拓のどちらがより国益にかなうのか。答は自明だろう。

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