●安倍政権の意向を受けて電力寡占を破壊したい意向となるや否や・・・

東電が出資した「電力会社を破壊する技術」半年で3件、海外ベンチャー出資に奔走する理由
           日経ビジネス20170418

 1)「東京電力が出資したのは、我々電力会社のビジネスモデルを壊しかねない技術だ。
技術動向のリサーチは必要だが、出資までする必要があったのか」。ある大手電力会社幹部は苦虫を噛み潰したような表情を見せる。
 大手電力会社のビジネスモデルは、大規模な発電所で電気を作って、それを企業や個人に売ること。つまり「発電してナンボ」の世界だ。省エネが進めば売り上げが減る。大手電力以外の事業者や個人が所有する発電所の増加も売り上げを減らす。太陽光発電などを手がける人が増えることは、大手電力会社にとってビジネスモデルを揺るがす一大事である。
 そんな中、東京電力ホールディングス(HD)は4月4日、英モイクサへの出資を発表した。モイクサは2006年に創業したベンチャーで、一般住宅向けに太陽光発電と蓄電池を組み合わせたシステムを提供している。

英モイクサが一般家庭に提供している蓄電池はコンパクトなのが特徴だ

 蓄電池には、昼間に太陽光で発電して使いきれなかった電気や、料金が安価な夜間の電気を貯めておく。この電気を料金が高い昼間や、太陽光が発電しない夜間に使うことで、電力会社に支払う電気料金を引き下げることが可能になる。こうした使い方は「ピークシフト」と呼ばれる。
 日本では、太陽光発電による電気は「固定価格買取制度」(FIT)を活用し、地域の大手電力会社に固定価格で買い取ってもらうのが一般的だ。これは大手電力会社の電気料金よりもFITの買取価格の方が高いため、太陽光による電気を自分で使う(自家消費)よりも、FITで売電した方がお得だからだ。

 ところが海外では、FITの条件の切り下げや制度自体の廃止によって、太陽光による電気を自家消費した方が得になるケースが出てきている(蓄電池導入で「安い電力」になってきた太陽光)。この時、蓄電池を組み合わせてピークシフトすることで、太陽光による電力を余す所なく活用できる。太陽光発電や蓄電池の価格が安くなってきたことで、やりようによっては、これまで電力会社に支払ってきた電気料金よりも、トータルのエネルギーコストが安くなる。
 いま、世界各国で太陽光の自家消費と蓄電池を組合せたシステムを提供するサービス事業者が誕生しつつある。モイクサは、こうしたサービス事業者の中で、「VPP」(バーチャルパワープラント、仮想発電所)という技術によって、さらに蓄電池の付加価値を上げるビジネスをいち早くスタートさせた事業者として知られる。

2)モイクサの蓄電池システムは10年で投資回収可能に
 では、モイクサのサービスでエネルギーコストはどれだけ安くなるのか。少し前になるが、2016年1月にモイクサのクリス・ライトCTO(最高技術責任者)が日経エネルギーNextの取材で明かしたコスト試算を紹介したい。
 当時、モイクサは英国で350の家庭に蓄電池システム「Maslow」を販売した実績があった。Maslowの特徴は、コンパクトで安価であること。中国製のリン酸鉄型リチウムイオン電池を採用しており、容量2kWhで2000ポンド(約28万円)だった。現在、米テスラが販売しているリチウムイオン電池「パワーウオール」が7kWh以上の容量であることを考えると、容量は3分の1以下と小さい。

 蓄電池は安くなったといっても、まだまだ高価な商品だ。ライトCTOは、「テスラの電池は家庭向けには大きすぎる。電気料金を引き下げるのが目的なら2kWhで十分」と説明している。初期投資が安くなれば、導入へのハードルも低くなる。
 モイクサの試算では、ピークシフトによる電気料金の節約額は年間80~130ポンド(1万1000~1万8000円)。これだけだと、蓄電池システムの投資回収に15~25年かかってしまう計算だ。多くのメーカーが蓄電池システムの保証期間を10年に設定していることから、投資回収は少なくとも10年以内にする必要がある。

 そこで登場するのが「VPP」である。モイクサは複数の顧客の蓄電池に溜まっている電気を遠隔制御することでアグリゲーションし、あたかも1つの発電所であるかのように取り扱う。
 こうして集めた電気を、例えば、英国の系統運用機関であるナショナルグリッドが運用する「アンシラリーサービス」への入札や卸電力市場で取引する。そこで得た対価を蓄電池利用者に分配しようというわけだ。アンシラリーサービスとは、電力網を運用する系統運用機関が周波数を調整し停電を防ぐために実施する周波数調整市場のことだ。

 モイクサは取材当時、VPP運用によって得られる対価分として、年間76ポンド(約1万円)を固定価格で5年間支払うとしていた。ピークシフトとVPP運用による対価を合算すると、1軒当たり年間で約200ポンドの節約となり、「顧客は蓄電池の初期投資を約10年で回収できる計算だ」(ライトCTO)。
 英国も再生可能エネルギーの導入量が増加しており、系統安定化コストは増加傾向にある。今後、周波数調整市場の価格は上昇していくと見られている。そうなれば、モイクサのVPP運用による対価も上昇し、蓄電池のコスト回収期間も短くなるだろう。
 なお、東電の発表資料によると、モイクサは現在、VPPによって集めた電気を英国のデマンドレスポンス(DR)事業者である英キウイパワーなどに売電している。DR事業者を介して周波数調整市場に参加しているとみられる。

3)東電がモイクサに出資したのは「蓄電池ソリューションを学ぶため」
 話を東電HDの出資に戻そう。
 そもそも、東電HDのモイクサへの出資比率は3%。出資金額はわずか7000万円だ。この規模感に、「あえて出資する必要があったのか」という声が聞こえてくる。
 東電はモイクサへの出資の理由を「家庭向けの蓄電池サービスのビジネスモデルを学ぶため」と説明する。太陽光の自家消費を組み合わせた家庭向けサービスという点に注目している。
 とはいえ、自家消費モデルだけなら数多くの事業者が既に世界各国でサービスを開始している。国内でも、日本エコシステム(東京都品川区)が「じぶん電力」という名称でサービスを展開している。

 モイクサの面白いところは、VPP運用による対価を、蓄電池を導入した家庭に還元しているところにある。VPPこそ冒頭の大手電力会社幹部が「電力会社のビジネスモデルを崩壊させかねない技術」なのである。
 東電HDにモイクサのVPP手法について問うと、「日本にはまだ一般家庭を対象にした調整力市場は存在しない。現時点では視野に入っていない」という答えが帰ってきた。経済産業省が2016年度から展開している「バーチャルパワープラント構築実証事業」などに参画しながら、「様子を見る」という。
 では、出資の本当の理由は何だったのか。複数の関係者が「海外ベンチャーに出資することが必要だった」とみる。

国の意向が海外ベンチャーへの出資を後押し?
 福島第1原子力発電所事故により経営難に陥った東電は、実質国有化されている。そして、成長戦略の一丁目一番地が、他社とのアライアンスだ。
 今回の出資を手掛けたのは、2013年5月に設置した「新成長タスクフォース」という組織。この組織は、社外のパートナー企業とのアライアンスなどを通じて、新しい成長産業の創出に貢献することを目的としている。ベンチャーキャピタルでの勤務経験を持つ人材を登用し、海外ベンチャーへの投資を検討してきた。

 実は、モイクサへの出資は、新成長タスクフォースによる海外ベンチャー投資の3件目に当たる。1件目が2016年10月3日に発表した小型風車ベンチャー、米ユナイテッド・ウインド。続く2件目が昨年12月6日に出資した米ビア・サイエンスである。ビア・サイエンスは、AI(人工知能)を活用した送配電網の最適化ソリューションで実績を持つベンチャーだ。そして3件目がモイクサである。つまり、わずか半年の間に、3社のベンチャーに少額のマイナー出資しているのだ。

4)「国の意向もあり出資したという事実が非常に重要」。
ある東電関係者は、こう明かす。となれば、わずか3%、7000万円の出資にも合点がいく。東電グループの再建計画「新・総合特別事業計画」が3月末に区切りを迎えるタイミングであったことも、矢継ぎ早に出資を決めたことと相反しない(モイクサへの出資は3月31日で、4月4日は発表日)。
 日本は今後、人口減少や省エネの進展、分散電源の導入拡大によって、電力需要は減少していく。これは抗いようのない事実だ。であるならば、大手電力会社は長年培ってきたビジネスモデルを変革していくことが必要だろう。

 東電HDのモイクサへの出資が、仮に「出資ありき」の意思決定だったとしても、近い将来、モイクサのようなビジネスモデルへの取り組みを求められる日が必ずやってくる。既存ビジネスによる売り上げを失うことがあったとしても、企業としてさらなる成長を求めるのであれば避けては通れない道だ。そして、次なる日本のエネルギーシステムを作っていくためにも、東電をはじめとする大手電力が担うべき役割は大きい。大手電力自らが、次なる扉を拓くべき時が来ているのではないだろうか。

 欧州では、再生可能エネルギーの急拡大によって、大手電力各社の火力発電所の稼働率が低下。不良資産化しつつある発電事業によって、業績の低迷も著しい。もし、大手電力が自ら再エネの導入に舵を切っていたら、今頃は再エネによる市場拡大の果実をその手に収めていた可能性は高い。日本も同じだ。今まさに日本の電力システムは転換期を迎えようとしている。大手電力が自己変革すべき時期は、すぐそこまできている。
 1つ、将来に向けた前向きな動きもある。東電HDは4月、新組織を設置した。その名も「リソースアグリゲーション推進室」。リソースアグリゲーションとは、分散電源などを活用した調整力のことを指す。まさに、VPP活用を示唆する組織名だ。原発事故を経て、変化を求められている王者東電の今後に注目したい。

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